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東京地方裁判所 昭和30年(行モ)10号 決定

申立人 常南興業株式会社 外二名

被申立人 農林大臣

主文

被申立人が昭和二九年七月六日附申立人常南興業株式会社同永作昇に対し、同月七日附申立人羽生実に対してした「茨城県知事のした未墾地買収処分に対する訴願について」の各裁決中、訴願を棄却した部分につき、これに基く執行を本案判決が確定するまで停止する。

(裁判官 近藤完爾 入山実 粕谷俊治)

行政処分執行停止命令申立事件

申立の趣旨

被申立人が昭和二十九年七月六日申立人等に対して為した訴願裁決の執行を本案判決が確定する迄の間停止する。

との御裁判を求める。

申立の理由

一、申立人常南興業株式会社は肩書地において農産物の加工販売並びに肥料の販売を営む株式会社であり、申立人永作昇同羽生実は夫々肩書地において自作農業を営むものであるが、茨城県知事は昭和二十八年十一月一日申立人等所有の別紙目録記載の山林を違法にも買収することを決定し、その買収令書を申立人等に交付した。従つて申立人等は夫々被申立人に訴願を提起したところ、是れ又之を棄却する旨の裁決を受けた。仍つて申立人等は御庁に右裁決取消請求訴訟を提起し、目下該事件は御庁に繋属中である。

二、申立人常南興業株式会社の所有地は従業員阿部勇が農業に転業するに当りその全部を同人に開放し、同人は昭和二十八年四月二十一日開墾申請を為し、麻生町農業委員会の承認を得て、開墾に着手し、六坪の家屋を建築してこれに居住し、爾来一町一反歩を開墾し、残余の土地については引続き開墾中である。

三、申立人永作昇、同羽生実の所有地は松、杉、雑木が密生する申立人等の薪炭採草林であつて、申立人等の自家用薪炭草木の供給源として欠くことのできない山林であるから、若し申立人等がこれを失えば、申立人等の農業経営は全く不能に陥るのである。而して申立人等の所有する本件山林は、附近水田の灌漑用水の水源であつて、若しこれを開墾するときは、附近の水田が耕作不能となること明白である。

加え、申立人等は貧窮な生活を打開するため増反を熱望し、曾つて本件山林の開墾を申請したのに拘らず、茨城県知事は、昭和二十八年七月三十日附を以て伐採不許可決定通知書を交付して、申立人等の開墾を禁止したので、已むを得ず、将来山林としての利用価値に希望をつなぎ、僅かに当面の自家用薪炭採草林として利用して来たものである。然るに其の後に至つて突如として之を買収するが如きは行政の不統一と矛盾は其の極に達するものと断ぜざるを得ない。

四、而して一方に於て一部の者は目下強行に立入開墾の準備に策動中であつて若し開墾が進捗すれば、申立人等は他日勝訴の判決を受け、該判決が確定しても時既に遅く、通常の手段では到底補償至難、回復不能の損害を破ることは極めて明白であつて、今直ちに訴願裁決の執行を差止める逼迫した事情が存する次第である。

(疏明方法、附属書類および目録省略)

昭和三十年三月七日

右申立人代理人 弁護士 森清

同 森本寛美

東京地方裁判所御中

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